万葉集巻二十編纂の謎

伎人郷（くれのさと）現大阪市平野区喜連	攝河の地に息長川は存在せず	万葉歌と大伴家持の生涯
平野川関連河川 (空港北濠・大正川・今川・駒川)	万葉の息長川	孝謙天皇難波宮行幸と河内六寺
平野川筋探訪	付け替えられた大和川 (長瀬川を訪ねて)	馬史国人 (万葉歌4458の詠み人)

｢今川＝息長川｣論者であるＵ氏と息長川論について時折メ－ルで議論しますが、事が万葉集に及び｢相聞歌の特性｣とか｢相聞歌性｣などをもちだされると私は万葉歌や和歌についての知識がなく議論にならないので、この問題は後日にと極力避けてきたのですが、｢貴殿は万葉集には触れない」との意向ですが、息長川論については4458に関する解釈が基点ですから、避けて通れない問題点である筈です｣とＵ氏の云われるとおり、天平勝宝８年の孝謙天皇難波宮行幸に関する万葉集巻20-4457～4459の題詞と左注がこの｢息長川｣論争の発端です。しかし万葉歌の歌意や相聞歌についての知識が皆無の私にとっては相聞歌・雑歌・挽歌の識別や相聞歌の特性を理解する事は予想外の難題でしたが、この｢万葉集｣論議から逃げる訳にもゆかず取り敢えず万葉学者の論文等を引用しながら、ここにＵ氏への反論と私の万葉集学習から得たことは多くありましたが、残念ながら「万葉の息長川」問題がズバリ解決する結論を得ることは出来ませんでした。取敢えず学習結果をここに報告させていただきます。

相聞歌の共通性といった制約はあるのか？

相聞歌の共通性について田中卓著作集５｢壬申の乱とその前後｣の｢中皇命と有馬皇子p235～246｣を参照され、『相聞歌間では、詠まれた｢場所や時刻が一致｣しており、その｢情景が類似｣しているとする説』であり、相互間に共通する事項(歌詠みの時期や場所および情景が一致すること)を手掛かりとして、万葉集の｢4457｣と｢4458｣が詠まれた歌宴には息長川が必須のものであり、｢4458｣に大乗川・東除川・平野川が詠み込まれたとすると家持が西を向いて詠っているのに、答礼する国人が東や北を向いて詠うことになり、相聞歌の｢歌作の同一情景｣から見てありえません。このように相聞歌間の共通性からみて、｢4458｣の息長川を喜連川(下流部は今川)とする以外の諸説は｢歌宴の情景解釈｣が適切でなく、不合理であると明確に指摘できたことは、田中卓先生のお陰です。［Ｕ氏の説］

万葉歌の相聞歌といわれる部類の歌作について、｢共通性｣｢歌宴で主客が西の情景を詠めば返歌も西の情景を詠まなければならない｣といった制約があるのか？調べてみました。
相聞歌の共通性について参照された田中卓著作集５｢中皇命と有馬皇子p235～246｣　にある相聞歌の共通性とは｢中皇命往二于紀温泉一之時御歌｣万葉集巻1-10～12の三首の中の10・11の歌と巻2-14・142の有馬皇子の歌の情景の類似から有馬皇子紀伊護送の中に中皇命もおられたのではないかと推察されたもので｢主客が西の情景を詠めば返歌も西の情景を詠まなければならない｣｢相聞歌性｣といった作歌制約については述べておられません。因みに田中卓著作集５｢中皇命と有馬皇子p235～246｣で｢情景の類似｣として指摘しておられるのは次の四首です。

　★巻1-10 　君が代も吾が代も知るや磐代の岡の草根をいざ結びてな　中皇命　★巻2-14 　磐代の浜松が枝を引き結び真幸くあらばまた還り見む有間皇子　　☆巻1-11 吾が脊子は仮廬作らす草なくば小松が下の草を苅らさね中皇命
　☆巻2-142　家にあれば笥に盛る飯を草枕旅にしあれば椎の葉に盛る有間皇子

※ ｢有馬皇子｣孝徳天皇の皇子で斉明天皇に対する反逆容疑をかけられ天皇滞在中　　の紀伊に護送され中大兄皇子の尋問を受け藤白坂で絞首刑に処せられた。こ　　の事件は密告者の蘇我赤兄が中大兄皇子の命を受け仕組んだものという説が　　有力です。

	万葉集　2-165 うつそみの人なるわれや　　明日よりは二上山を　　　　　弟よとわが見む　　　　　　　　　大伯皇女　写真左　　二上山雄岳の伝大津皇子の墓　写真下左　鳥谷口古墳から藤原京跡遠望　写真下右　こちらが大津皇子の墓といわれる　　　　　　鳥谷口古墳

私も万葉集の名は知っていましたが収録されている和歌などには凡そ縁遠く歌詠み人の大伴家持が編集した歌集ぐらいの認識しかなく、今回初めて家持の生涯や家持の詠んだ歌、万葉集の編纂過程を知った次第です。また万葉集に収録されている歌は次の三部類になっているそうです。
｢雑歌(ぞうか)｣宮廷関係の歌、旅で詠んだ歌、自然や四季をめでた歌
｢相聞(そうもんか)｣消息を通じて問い交わすことで、主として男女の恋を詠みあ　　　う歌
｢挽歌(ばんか)｣棺を曳く時の歌。死者を悼み、哀傷する歌
万葉集4500首余の中で、それぞれの巻頭歌に据えられているのが｢雑歌｣では
巻1-1｢籠もよ御籠持ち…｣雄略天皇の歌。｢相聞歌｣では巻2-88｢秋の田の穂のうえに…｣磐姫皇后の歌。｢挽歌｣巻3-415｢家ならば妹が手まかむ…　｣聖徳太子の歌、だそうです。
【山田孝雄文学博士の相聞考より】
相聞とは概括して言へば往復存問の意なるを見るべし。而してその文字の面を以て推すに相は交互の意にして聞は以聞の聞にして意志を伝達する義なり。されば相聞の熟字は此を用にしていへば消息を通じ交換する義にしてこれを體にして、いへば往来の信書なるなり。而してその用をあらはすが本義にして體となれるは轉義なること明かなり。
万葉集の編者は果たして相聞歌の原義をそのまま使用したのかという疑問が生じてきますが、これについて万葉学者の間でも｢相聞を必ずしも原義通にのみ解していなかったと思われる｣｢万葉集の部目として採られる当初からして相聞は原義より更に広い意味に解せられていた｣といわれています。
【折口信夫の相聞歌論】
万葉集に、恋歌といふ部類はない。恋歌といふ名は古今集から始まっている。併し、恋歌といふものは、古今集以前にもあつたに相違ないが、ずつと昔に遡ると、恋歌の意味が違つて来る。其は恋愛歌といふ意味ではなかつた。こひ歌といふことは、相手の魂をひきつけること、たま迎への歌といふことだ。その手段にも目的にもいろいろとある。
人が死んだ時もこひ歌があるし、勿論生きている人に対しても、また、女なら女を靡かせようとする時も、女の魂を引きよせる為のこひ歌がある。だから、こひ歌とは、結局魂乞ひの魂が脱落したことになる。古今集で恋歌が出来たのは、こひの意味が一方に傾いたからで、万葉集で恋歌といふことを使えば、きつと、まだ誤解があつたろう。で、万葉集から古今集に到る、凡そ100年位の間に、いつかこひ歌が、恋愛の意味を表すことになつたとてよい。古今集の恋歌を、万葉集で求めると、所謂、相聞、或いは相聞歌と書いてある部分にあるものが、之に当たるらしい。其は相聞といふ部立の意味からして恋愛とは違ふからだ。昔の恋歌の、古今集の恋歌に近いものは、掛合の歌、または其の約束で発達して来たものとみた方がよい。つまり、男と女の掛合の歌だ。だから、正確に恋歌に入らないものがある。処が、此掛合ひが、中国の相聞往来(とりかはせ)に当たる訣だ。お互いに問い交わすことが相聞である。しかし日本の掛合ひに、正確に｢相聞｣があたるといふ訣ではない。日本の掛合ひ歌には約束がある。問い掛ければ、当然、答えなくてはならぬが、問答は初めから答えがあるけれども、掛合ひは、答へを予期しないものもあつたので、丁度、掛合ひといふことと、相聞とがよく似て来る。つまり、問い交わしと日本の掛合ひと、ちょつと意味が似てくるので、相聞といふ字を用いたのである。だから、相聞の部には男女の掛合ひでない歌もある。また、全然、恋愛歌でないと見られているものでも、何処かにその形跡をもつているものもあり、どうしても恋愛歌でないものもある。相聞の部にはそういふ類の歌がある。』
長い引用文になりましたが相聞歌とはこのような部立ての歌だということがわかりました。

奈良市佐保の伝大伴氏邸跡	大伴氏邸跡の坂上朗女の歌碑	佐保地区民家の玄関にある家持歌碑

｢息長川｣論議の発端である万葉集巻二十の天平勝宝八歳の題詞については当ＨＰ｢孝謙天皇難波宮行幸と河内六寺｣の項で私説を述べさせて頂きましたので、ここでは省略させて頂きます。　
ご覧になる方は下の[万葉集巻二十…]をクリックしてください。

万葉集巻二十天平勝宝八歳の題詞について

ここで私達(息長川論議者)が問題にしているのは4458の｢古新未詳｣の左註と万葉集巻二十の編纂課程と編纂者は誰かということです。この4458の｢古新未詳｣の文字を何時、誰が筆録したのか、これを解明することにより4458に詠まれた息長川が河内・摂津の川か近江の川か判明するのではないでしょうか。まず馬国人の家で詠まれた宴歌三首の歌意の解釈とこれに関連するといわれる4460～4464の五首について考えてみたいと思います。

　4457　
　　住の江の　　　　　　濱松が根の　　　　　　　下延へて　　　　　　我が見る小野の　　　　　　　草な刈りそね
須美乃江乃　波麻末都我根乃　之多婆倍弖　和我見流乎努能　久佐奈加利曾祢　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　右一首兵部少輔大伴宿祢家持
【歌意】住吉の濱松の根の地に延びているように、人に知られず心で思って私が見る野の草を刈らないでほしい。

　 4458
　　にほ鳥の　　　　　　　　息長河は　　　　　　　絶えぬとも　　　　　　君に語らむ　　　　　　　言尽きめやも　
尓保杼里乃　於吉奈我河波半　多延奴等母　伎美尓可多良武　己等都奇米也母
　　　　　　　　　　　　　　右一首主人散位寮散位馬史国人　古新未詳
【歌意】息長河の水は絶えてしまおうとも、君に語る言葉が尽きる事がありましょうか。

　 4459
　蘆刈りに　　堀江漕ぐなる　　　　　　　　　楫の音は　　　　　　　大宮人の　　　　　　　　　皆聞くまでに　
蘆苅尓　保里江許具奈流　可治能於等波　於保美也比等能　未奈伎久麻泥?尓
　　　　　　　　　　　　　　右一首式部少丞大伴宿祢池主読之即云兵部
　　　　　　　　　　　　　　　大丞大原真人今城先日他所読歌者也
【歌意】蘆を刈りに堀江を漕いでいる楫の音は宮中にいる大宮人が皆聞くまでに高く響いて

ここに挙げた歌意が私達がこの歌から感じる歌意だと思いますが1975年発行尾崎暢殃著｢大伴家持論攷｣で見た4457～4459の歌意について感銘を受けましたので、ここに紹介致します。
《家持の4457の歌は小野わ憧れの人に擬えた恋歌仕立ての作。主賓の立場での詠みで、主人国人の家の環境をほめて謝意を示すのが本意と見られる。第三句の｢下延ふ｣は心の内にずっとしまいこんで思い続ける意で、人間だけを対象にする言葉である。また、第四句の｢小野｣は人里の小さな野の意で、人気のない野をゆう。｢大野｣｢荒野｣に対する。結句の｢草な刈りそね｣の類は、そこを大切に思うが故に、変えず崩さずに元のままにしておきたいという心からの表現で、集中女の立場の歌に目立つけれども(4-529以下)、男の立場の歌にもないわけではない。(7-1274など)ここは、どうやら男性が女性を思う歌として披露されたものと覚しい。主人馬国人はその辺のことを即座に察知したらしい。引かれて、相対する女の立場の恋歌を持ち出して応じた。下に｢古新未詳｣とあるのは家持が注したのであろうが、家持がそう感じたように、近江の川｢息長川｣、場違いの川の名を詠みこむこの歌は古歌に違いない。下二句は、目下の歓待の気持ちをそのまま示し得ている。男の恋の今歌(前歌)に女の恋の古歌を合わせたのは、当意即妙。すでにその機智だけで、主人の心尽くしは全うされている。最後の4459の歌は、前歌の古恋歌に引かれて、過去の他人の歌を持ち出したものと思われる。｢大宮人の皆聞くまで｣に｢楫の音｣の聞こえてくるような環境だという次第で、家持の4457の歌に応じて国人の家を賛美する結果になっている。歌は、大原今城が｢先つ日に他し所｣で伝読したものだという。案ずるに、この｢先つ日｣とは、太上天皇が難波堀江に行幸した三月一日を指すのであろう。従って｢他し所｣とは目下の国人の家とは異なる難波堀江を指すことになる。六日前に、大原今城が堀江で伝読した歌をここで早速りようしたわけだが、目下、太上天皇たちの行幸に供奉いることとて、時宜に適っており、主人の労に対しては最高の賛美となり、感謝ともなる。納め歌としての働きが充分なされていて、さすがは大伴池主だという感が強い。》

因みに4-529・7-1274の歌とは次の二首です。

　4-529
　佐保川の　岸のつかさの　柴な刈りそね　
　　　　　　　ありつつも春し　来たらば立ち　隠るがね　　大伴坂上朗女
　7-1274
　住吉の　出見の浜の　柴な刈りそね　
　　　　　いでみ　娘子らが　赤裳の裾の　濡れて行かむ見む　　柿本人麻呂
　　　　　　　　おとめ

4457～59の三首の歌意については成程と感じ入りましたが4459の左注については疑問が残ります。ここでは｢先つ日｣とは、太上天皇が難波堀江に行幸した三月一日。｢他し所｣とは難波堀江と断定しています。この太上天皇の難波堀江行幸は病気平癒のための禊を行うためのものではなかったと私は推測するのです。「続日本紀」の二月二十五日、二十六日条、に考謙天皇の河内六寺の参拝、内舎人を遣わしての各寺での誦経、施物。三月二日の摂河二国の田租免除、五日には使いを摂津国の諸寺に遣わしての誦経、施物。これらのことからも、この行幸は太上天皇の強い要請から知識寺への参詣と難波の堀江での禊が主目的ではなかったのでは、そうした禊の場で供奉の者が歌を詠むということは考えられないのではないでしょうか。また、この時に家持も三首の歌を作り三月七日の馬国人の家での歌宴で披露したという説もあり、それが次の歌です。

4460　堀江を漕ぐ　伊豆手の船の　楫のつくめ　音しば立ちぬ　水脈早みかも
4461　堀江より　水脈さか上る　楫の音の　間無くぞ奈良は　恋しかりける
4462　船競ふ　堀江の川の　水際に　来居つつ鳴くは　都鳥かも
　　　　　　　　　　　　　　　　　右三首江辺作之
この4460～4462の三首には題詞・作者名・詠作日もなく作者不明ですが西本願寺本左註の｢右三首江辺作之｣、京大・近衛本では｢右三首江辺｣とあり、三月一日の聖武太上天皇堀江行幸の折り大原今城の4459の歌に誘われ家持が詠んだ歌といわれています。また、題詞の無い歌は前の日付のある歌と同居関係にあるので、この三首も馬国人宅の歌宴で披露されたという説もありますが、三月七日の歌宴題詞には｢…馬国人之家宴歌三首｣と明記されているので、4460～4462の三首が4457～4459三首と同時に馬国人宅の歌宴で披露されたというのはいかがなものでしょうか。また次の4463・64の二首にも題詞がなく
4463　ほととぎす　まづ鳴く朝明　いかにせば　我が門過ぎじ　語り継ぐまで
4464　ほととぎす　かけつつ君が　松陰に　紐解き放くる　月近付きぬ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　右二首二十日大伴宿祢家持興依作之
題詞がなく左註に｢右二首二十日大伴宿祢家持興依作之｣とあるのですが、西本願寺本・京大本・近衛本の巻二十の目録には「廿日大伴宿祢家持依興作歌五首」と記されていて堀江の三首とホトトギスの二首は廿日に家持が作ったことになり、本条とは食い違いがあります。また、元暦校本にも｢右五首廿日大伴宿祢家持興依作之｣とあるそうです。また4463・64の左註の｢二十日｣についても三月説、四月説があるようです。筆録者もこれらに題詞と月を入れてくれていたら後世論議を呼ぶこともなかったでしょうに。｢難波行幸期間二月二十四日～四月十七日内の詠みであり三月二十日以外ではあり得ない、行幸期間内の三月二十日での詠みなればこそ、事もなげに三月を省いて記したのである｣という伊藤博説が当を得ているとおもいます。四月二十日説は太上天皇の病状悪化で平城宮還幸直後であり、その時期に家持がこの歌を詠んだとは考えられません。
万葉集にはこの歌で終わる伝本があり、五月二日の聖武太上天皇の崩御で編纂者家持？は巻を閉じる方針であったという説もあります。このほか万葉集巻二十の写本には写し間違・後世に推理・推測で諸説を呼ぶ朱書き記事もあります。

下の写真は万葉集写本｢西本願寺本｣の馬国人宅で詠まれた三首と、このとき披露されたのではといれる三首の部分です。他の写本はくずし字で書写されたものが多いのですが西本願寺本は縦32㎝、横約25㎝の和紙に楷書で１頁８行で書写されていて私の様な素人にも非常に見やすく訓も片仮名で解りやすいです。

4459～4461　三首	題詞部分と4457・4458　二首	天平勝宝八歳の題詞部分

下左は4462・4463・4464で4460～4462の左注に「右三首江邊作之」。4463・4464の左注に「右二首廿日大伴宿祢家持依興作之」さらに左注の右に書き入れがあり「今勘至干此歌聖武天皇御在生之時歌也仍彼叡覧之時此集寂末歌可終於茲者?」聖武天皇在世中の作歌であることがわかります。よってこれは三月二十日であろうと思われます。


本編中では4460～62は江邊作之、4463・4464は依興作歌として聖武在生時の作と添え書き有。	万葉集巻二十の目録部分4460～4464の歌をここでは廿日に依興作歌五首と記しています。

現代公開されている｢万葉集｣は全て写本で原本は所在不明です。最古の写本は十一世紀に書写された｢桂本万葉集｣で巻四の一部が残っているそうです。この桂本に次ぐ古写本の｢藍氏本万葉集｣が国宝に指定されています（巻1.9.10.18の断簡）。以後室町期までに書写されたものが現代五十数冊あるといわれていますが全二十巻揃ったものは少ないようです。元暦校本（平安時代中期）・金沢本（平安時代後期）・尼崎本（平安時代末期）・嘉暦伝承本（鎌倉時代初期）・西本願寺本（鎌倉時代後期）・紀州本（1～10巻＝鎌倉時代末期　11～20巻＝室町時代後期）などがよく知られているようです。西本願寺本は二十巻全て揃った最も古い写本としてよく知られています。
私もこの西本願寺本・近衛本・京大本を参考に検証させていただきました。
万葉集は全二十卷で四千五百首以上の和歌を収めており、卷一から卷七までの七卷が最初に出来上がった第一部万葉集。次の卷八から卷十六までの九卷が第二部万葉集。次の卷十七から卷二十が第三部万葉集といわれ三部に分かれていて、それぞれの部の編纂者についも万葉学者・研究者の間で様々な意見があります。この｢万葉の息長川｣は卷二十の4458｢鳰鳥の息長川……｣が基点ですから、ここでは卷二十の編纂についてのみ考察してみたいと思いますが、巻十七～二十の四巻は家持関係の作品が多く年代順に収録されていて、家持歌日記ともいわれているそうです。卷二十には(753)天平勝宝五年五月の4293から(759)天平宝字三年一月一日に家持が因幡国庁で詠んだ4516まで五年八ヶ月の間の歌が収められています。その内容は家持の歌78首、大原今城が７首、中臣清麻呂が５首、橘諸兄、甘南備伊香が各４首、大伴池主が３首、その他は二首から一首の人達が二十数人となっていて、詠まれている歌も半数近くが防人歌でその数も93首ありこれらの歌で卷二十が構成されています。
この項の終わりに掲載しました家持年譜(天平勝宝５～死去まで)にあるように巻二十は家持三十六歳から四十二歳の家持と関連する人たちの歌記録であり、天平勝宝五年五月に家持が大納言藤原仲麻呂邸を公用で訪れた時に聞いた歌(4293・4)から始まり、(757)橘奈良麻呂の乱の関与を疑われ翌年因幡守に左遷され(759)天平宝字三年正月に因幡国庁で詠んだ
　　4516　　新しき　年の初めの　初春の　今日降る雪の　いやしけ吉事
が巻末歌でもあり、家持生涯の最終歌といわれて、この時家持四十二歳です。よって万葉集終末巻の編纂は天平宝字三年以降となります。編纂は何時誰によって行われ、何時完成したのか、識者の論説は下記のようです。

後藤利雄説(～2001・国文学者・歌人)
万葉集巻十七～二十について非家持的・家持以後的要素を多く含む。それらの｢要素｣は、家持最終撰説を否定する上での決定的論拠とはならないかも知れないが、家持の越中赴任が万葉集では天平十八年閏七月とされること(本当は18年の閏は九月)4254～4258(巻19)の題詞・左註に中臣清麿の官名を左中弁(実際は尾張守)とすること等の事実をもって万葉の最終編者とみなす上での支障となるものであろう。
4457～最終歌までは家持以外　坂上大嬢の保充したもの？
　(続紀＝天平勝宝3年正月25日従5位下中臣朝臣清麻呂に従5位上を授けた。官職記事なし。)

品田太吉説(1775～1834)
万葉集1.2巻は勅撰の古万葉集。　3.4.8の３巻が大伴家持による続撰。９は拾遺。7.10.11.12.13.14.15.16の８巻が別集。5.6.17.18.19.20の６巻は家集。
巻１編者、柿本人麻呂・山上憶良・長意吉麻呂の中の誰か。　巻２＝大伴旅人

折口信夫説(1887～1953・国文学者・詩人・歌人)　
平城万葉集　*1薬子事件によって巻３で中断、再び世に出たのは村上天皇時代の
*2梨壺の５人によるもの。
この平城勅撰説に、山田孝雄・沢潟久孝・大久保正・小島憲之の各氏が概ね賛同しておられます。久松潜一・武田祐吉・中西進・伊藤博・小島信一の各氏は下記の条件付き賛同です。
久松潜一説(1894～1976)国文学者・文学博士　
撰者は家持　①1.2。②3.4.6.8.17.18.19.20。　③7.10.11.12.13.14。④9.16。　⑤15。⑥5。　６部分に分け２度の撰を想定　初撰越中赴任直前の天平18年頃。後撰は天平宝字３年から遠く隔たらない時代で20巻となり、その後も家持らによって手が加えられた。
武田祐吉説(1886～1958)国文学者
万葉集の２部構造を認めつつ、１～１６迄の故撰、17以降の新撰とも撰者・時代とも不明。この歌集が大伴家に伝わり現に見る姿になるまで整理増大に家持の力が加わっていることは比定しない。平城朝に世に出た説も理解できる。
小島憲之説(1913～1998)国文学者・上代文学専攻
公的性格部分と家持をめぐる家集的部分とその他が家持により完成近く編纂され奈良末期、宝亀３年以後にでも代表者としての某官人撰ということになり、平城天皇代に勅撰的歌集として公式に流布された。
伊藤博説(1925～2003) 国文学者・歌人・哲学者
１～16迄の、所謂第一部が元来の万葉集で、天平17年から18年－多分、３月までかけて、橘諸兄を顧問・総裁とする数人の編纂陣によってまとめられた。たがその中心人物は家持である。
中西進説(1929～)古典文学者・万葉学者・文学博士
家持と親しかった中臣清麻呂の旧宅に入られた平城天皇が、そこで見られた奈良時代の歌メモから編纂を企てられ、万葉集を作らせた。
4437～巻末歌まで筆録者は大原今城である。　　　
　　

＊1 平安初期の女官。種継の娘。娘が平城天皇の妃だったことから天皇の寵愛を受けたが、天皇譲位後、兄仲成ら　　　と嵯峨天皇を廃して平城上皇の復位を企て、失敗して自殺
＊2 (951)天暦5年、村上天皇の命により、梨壺の和歌所で後撰集を撰集し、また万葉集の訓点を施した五人の寄人　　　(よりうど)。大中臣能宣(おおなかとみのよしのぶ)・源順(みなもとのしたごう)・清原元輔・紀時文・坂上望　　　　城(さかのうえのもちき)。五歌仙。

　20-4401　　
　　韓衣裾に取り付き　泣く子らを
　　　　　　　置きてそ来ぬや　母なしにして
　　　　　　　　　　　　国造小県郡他田舎人大島
　　(からころも裾に取り付き泣く子らを置きて来ぬや母(おも)なしにして)
　
　20-4373　
　今日よりは顧みなくて　
　　　　　　　大王の醜の御楯と出で立つれは
　　　　　　　　　　　　　　　火長今奉部与曾布
　　(今日よりはかえりみなくておおきみのしこのみたてといであつわれは)

「万葉集」の命名・編纂者・成立時期等については識者の間で近世から近代にかけて研究が進められてきましたが現代に至るも正確なことは解からず従って定説は存在しないようです。
「万葉集」で最古の歌は磐姫皇后(314年立后仁徳皇后)の歌で(759)天平宝字三年正月の家持の歌が最終で、その間440年ほど、(645)大化改新・(672)壬申の乱・(694)藤原京遷都・(710)平城京遷都・(712)「古事記」完成・(720)「日本書紀」完成・(752)東大寺大仏開眼・①(759)天平宝字三年頃「万葉集」完成？　②家持42歳。この他(771)宝亀2年、完成説、家持54歳。この②宝亀2年説について伊藤博氏は、この頃家持は井上皇后(光仁皇后)や右大臣、大中臣朝臣清麻呂の後援を受け万葉十五巻本から二十巻本への完成に取組んでいたが
(772)宝亀3年に起きた井上皇后廃立事件により20巻本万葉集成企画が挫折。そして家持が二十巻本集成に取り組んだのが(782)延暦元年五月十七日に春宮大夫になった以後と推察しかし翌月には兼陸奥按察使鎮守府将軍に任じられ、早晩陸奥に派遣されることを予測二十巻本の集成を急ぎ征討将軍として陸奥に赴くまでに家持は二十巻本の本体を一応完結させたのではないか？。こうして宮廷に留め置かれた万葉集も(785)延暦四年の藤原種継暗殺事件で家持主犯と認定され朝廷の認証を得ることができなかった。因みに種継が暗殺されるより二十五日以前に家持は陸奥国で他界しています。(806)大同元年、桓武崩御で家持の罪も許され「万葉集」も晴れて公になった。これが伊藤説です。
また、巻17～19は2～3年前後の歌で編纂されているが巻20は約6年間の歌で編纂されている。4455-4456は天平元年作の歌である。 4457以下に編纂上の欠陥とおぼしき事由がある。これらの事から家持以外の人の編纂ではないかという説も根強くあります。
確かに私の見た京大本・近衛本・西本願寺本でも下記のような違いがあります。これが書写の際の誤写なのか、また他にも誤脱や誤字と思われる箇所もありますが、誤脱・誤字は素人が見てそうではないかと思うだけで自信はありません。


京大本万葉集	近衛本万葉集	西本願寺本万葉集	西本願寺本巻頭の目録	近衛本巻頭の目録

上は3種の万葉集伝本の天平勝宝八歳の題詞部分を行数・改行・一行の字数をそのまま転写したものです。京大本・西本願寺本では「太上天皇太皇太后」。近衛本では「太上天皇大后」で改行点もそれぞれ異なります。京大本は「三月七日‥‥」が別行になっています。また、西本願寺本は頁8行、一行20字。京大本は頁行数8行、一行字数決りなし。近衛本は頁行数7行一行字数決りなし。
万葉集各巻の初めに目録がありますが巻二十の目録には4460～4462の「江邊作之」の三首、4463・4の二首を、廿日作之としています。この箇所は近衛本・西本願寺本とも同じです。改行箇所は近衛本・西本願寺本とも目録、内容と異なります。西本願寺本では目録・本文歌部分とも馬国人の国人に薄墨で「トキヒト」とふりかなが付いています。

｢万葉集｣の編纂、完成について清和天皇(859～876)が文屋有季に「万葉集は何時ばかり作れるぞ」と御下問あり有季は「神無月時雨ふりおけるならのはの名におふ宮のふるごとぞこれ」と歌でお答えしたといわれています。また、「昔高野の女帝の御代、天平勝宝五年には、左大臣橘卿大夫等集まりて、万葉集を選ばせ給」と栄花物語にあり、これらは奈良時代に万葉集が完成していたことを語っています。江戸期の「万葉代匠記」は巻十六までと天平宝字三年に編まれた巻十七から巻二十までの二部仕立てで編者は大伴家持としています。橘諸兄・大伴家持の共同編纂説。その他巻一を柿本人麻呂・山上憶良、巻二大伴旅人、巻三他を橘諸兄、大伴家持と妻坂上大嬢ほか大伴家の書記達。とする説等があります。
これらの説とは別に巻二十の家持編纂説に疑義を抱く説もあります。その根拠として家持歌日記といわれる末四巻の編纂について巻17～19は前後２～３年の歌で纏められているが巻二十は約６年間もの歌を収めている。また、4457以下に編纂上の欠陥とおぼしき事由がある。というものです。
巻二十には二百二十三首の歌が収められており家持の歌七十八首、大原今城が七首、中臣清麻呂が五首、橘諸兄、甘南備伊香が各四首、大伴池主が三首、その他は二首から一首の人達が二十数人となっていて、詠まれている歌も半数近くが防人歌でその数も九十三首ありこれらの歌で卷二十が構成されています。その後半部の「編纂上の欠陥とおぼしき事由とは」識者の間でも4433以降。4442以降。4486以降。説等があるようです。これらの根拠として「仮名表記」や作者の署名に敬称法・通称法の用い方に一貫性が無い。天平宝字元年以降の三十一首に編纂上の不統一や不備が目に付く、と指摘されています。これらの事から巻二十の編纂には家持以外の人の手が入っているのではないかというものですが、私のような凡人には何処がどう違うのか解かりません。
ここでは私が見た西本願寺本を主体に京大本・近衛本を参考にして疑問に思った箇所のみ取り上げてみたいと思います。西本願寺本は(1266)文永三年頃に書写されたといわれ、全二十巻揃っているものとしては古写本中では最古で筆者は不明ですが三人の手によって書写されたといわれます。
　◆以下西本願寺本＝西・京大本＝京・近衛本＝近で表示させていただきます。
馬国人の4458の歌に付けられた「古新未詳」ですが、西・京・近にも記されています。「古新未詳」のほか「古今未詳」と記された歌 4298・4299・4301三首があります。「古新」「古今」の違いは？「古新(今)未だ詳らかならず」という同一意義だとおもうのですが。何故4458のみ「古新」に成っているのでしょう。これに関しては非仙覚本にも「古新未詳」の記載があると聞きますので編纂者記入の可能性が高いと思われます。また、この記入は後人の挿入説もありますが、いずれにしても原本が不明では編纂者の確定も困難だと思います。


西本願寺本4458の古新未詳	京大本4458の古新未詳		近衛本4458の古新未詳	4299の「古今未詳」

目録や元暦本によると4460～4464の五首は廿日に作られたことになります。しかし堀江の歌とホトトギスの歌が同日に作られたというのも首を傾けたくなりますが、廿日に作ったという三首・二首いずれにも「依興作」とあり、依興とは興に依りて作ったということで実際の見聞ではなく空想・想像を基にして作ったとも考えられ廿日に作った可能性も捨て切れません。この廿日には「月」が抜けていますが恐らく難波宮行幸時の三月でしょう。太陽暦では四月になりホトトギスを連想できる季節です。　　また、4464と左注の間に朱筆による書き込みがあり
今勘至于此歌聖武天皇御在生之時歌也仍彼叡覧之時此集寂末歌可終於茲者歟
《今勘ふるに、此の歌まで聖武天皇御在生の時の歌なり。仍りて彼の叡覧の時に此の集の最末の歌は茲に終わるべき者歟(?)》と記されています。
この書入れで見るとこの時点で万葉集の編纂作業は太上天皇の叡覧に達しているので崩御されたこの時点で編纂作業を終え完成としたいという意思が家持にあったように思われます。但しこの朱書きが家持のものか？　それとも共同編纂者のものかは不明です。万葉集の編纂は聖武太上天皇勅撰説もあり、この時点で一旦編纂作業が中断したのではないでしょうか。
次の4465の[題詞]「族(うがら)を喩(さと)す歌一首」の行間にも朱書きがあり
「自此歌以下聖武天皇崩御野後追書入之?以何知者聖武天皇崩御天平勝宝八年五月二日云々」「燃此哥六月十七日作之故也」　
《此の歌より以下は聖武天皇崩御の後に追いて書き入れしか。何を以って知るぞといはば、聖武天皇の崩御は天平勝宝八年五月二日云々》《然るに此の歌は六月十七日に作りし故なり》
此の朱書きも4464の朱書き同様、誰の書き入れか不明です。さらに4466・67と一族の自重・自戒を促す歌が続きます。4467の左注に「右縁淡海真人三船讒言出雲守大伴古慈斐宿□解任是以家持作此歌也」《右淡海（おうみ）三船の讒言に縁りて、出雲の守大伴古慈斐宿祢、任を解かれる。ここを以って家持この歌をつくる》とありますが「続日本紀」(756)天平勝宝八年五月十日条、に『出雲守従四位上の大伴古慈斐と内堅(ないじゆ)淡海真人三船は朝廷を非難悪口し、臣下としての礼を失したという罪に連座させられ、左右の衛士府に拘禁された。』五月十三日、天皇は詔して二人を共に放免された。と記されており万葉集の記事と違いをみせます。これについても諸説あり★淡海三船が大伴古慈斐を讒言した。★淡海三船が朝廷を誹謗し、それに大伴古慈斐が同調した。★淡海三船が讒言された事件に古慈斐が連座した。★家持が世情に疎く、この左注は家持の誤解。★家持はこれ以上の大伴家の衰退を防ぎ名誉を守るため、このような左注を万葉集に記した。という説等があります。
さらに、「病に臥して無常を悲しび、道を修めむと欲(おも)ひて作る歌二首」4468・69に「寿(いのちなが)けむことを願いて作る歌一首」4470、この左中に
以前歌六首六月十七日大伴宿祢家持作。4465「族を喩す歌」から4470「寿けむことを願いて作る歌」まで六首を同じ日に作ったと記しています。
この六月十七日は橘奈良麻呂事件の一年前にあたり、この時すでに家持は一族の中から事件の関与者の出ることを予測していたようで自重を促し、4466では「磯城島(しきしま)の大和の国に明らけき名に負ふ伴の緒心務めよ」さらに4467でも一族の自重、自愛を促し、「臥病悲無常欲修道作歌二首」の題詞で4468・69と斜陽の一路をたどる大伴一族の族長としての家持の苦悩を表した厭世的な暗い歌が続きます。
また、4483の左注にも両側に「家持天平十八年六月任越中守　天平勝宝二年四月任兵部少輔　天平宝字元年夏四月任兵部少輔」「天平宝字元年夏四月任兵部大輔　天平宝字二年六月任因幡守　見都續日本紀」の朱書きがあり4465と4483は家持の作歌ですが、編纂時に家持が書き入れたにしては文章が不自然です。素人の私が見てもこうした疑問箇所があり幾つもあり家持が編纂にどこまで関与していたのか？　しかし原本が不明であれば万葉集の編纂者は永遠に不詳であり続ける訳です。　


諭族歌一首并短謌　4465の行間に朱書された「自此歌以下聖武天皇崩御野後追書入之?以何知者聖　　武天皇崩御天平勝宝八年五月二日云々」「燃此哥六月十七日作之故也」の文字	4483の左注両側に朱書された「家持天平十八年六月任越中守　天平勝宝二年四月任兵部少輔　天平宝字元年夏四月任兵部少輔」「天平宝字元年夏四月任兵部大輔　天平宝字二年六月任因幡守　見都續日本紀」の文字


完成間近の大極殿	東大寺　転害門　天平時代の伽藍建築様相を残す唯一の遺構	転害門　石段の雨垂れ穴

大極殿の鴟尾	門柱にも1250有余年の歴史を感じる	1250有余年の歴史を刻む

2月20日、平城宮跡東院地区西北部の発掘調査現地説明会に訪れたときの大極殿は写真のようにほぼ完成状態でした。平城宮跡を訪ねた後は佐保路を通り転害門を訪れるのが私のお決まりコ－スで、この門の位置は大仏殿の西北にあり、吉祥の位置で害を転ずる意から転害門という変わった名が付けられたようです。三間一戸八脚門の形式をもつ堂々とした門で国宝に指定されていて東大寺の中でも創建当時の面影を残すのは、この門と正倉院・法華堂のみです。但し法華堂は正堂が天平時代の建築で鎌倉時代の礼堂と「造り合い」により繋がれています。いつも転害門に来るとこの天平の伽藍建築にしばし見とれます。柱材の節々、石段の雨垂れ穴、門横の崩れかけた土塀いずれも一千数百年の星霜を感じさせます。東大寺八幡宮のお旅所でもあり門中央には神輿を安置する基壇が設けられている。往古には聖武天皇や大伴家持も潜ったであろうこの門から佐保路・一条通り左京の東院や高級官僚街から・大極殿に至る路は庶民には縁遠い大路であったでしょう。

大伴家持略年譜(万葉集巻20編纂関連年のみ)	奈良時代	平安時代

西暦	和暦(年)	天皇	家持年齢	家持周辺の出来事
753	天平勝宝５年	考謙	36
754	６年		37	家持、兵部小輔拝命
755	７年		38	家持、防人検校のため難波に赴く。　2/2　橘諸兄失脚
756	８年		39	3/7家持、　伎人郷馬国人宅で歌宴。　　5/2聖武太上天皇崩御。　　　　大伴古慈悲朝廷誹謗で禁固
757	天平宝字元年		40	1/6橘諸兄死去。　6/16家持、兵部大輔拝命。　7/橘奈良麻呂の乱
758	２年	淳仁	41	6/16家持因幡守に左遷される。　8/1孝謙天皇大炊王に譲位淳仁天皇となる。
759	３年		42	1/1家持、因幡国庁で万葉集巻末20-4516を詠む。★家持の最終歌といわれる。
762	６年		45	1/9家持、信部大輔拝命。
763	７年		46	4/　恵美押勝暗殺計画発覚で家持、解任京外追放となる。
764	８年	承徳	47	1/12家持、薩摩守となる。　　孝謙太上天皇重祚称徳天皇となる。
765	天平神護元年		48	家持、薩摩守を解任される。
767	神護景雲元年		50	家持、大宰少弐に任命される。
770	宝亀元年	光仁	53	6/16家持、民部少輔拝命。　9/16左中弁兼中務大輔拝命。　10/1家持正五位下に昇叙。
771	２年		54	11/25家持、従四位下に昇叙される。　　●この頃万葉集の編纂完了の説あり。
772	３年		55	2/　家持左中弁兼式部員外大輔に任命される。
774	５年		57	3/5家持、相模守拝命。　9/4左京大夫兼上総守に任命される。
775	６年		58	11/2家持、衛門督を拝命。
776	７年		59	3/6家持、伊勢守拝命。
777	８年		60	1/7家持、従四位上に昇叙。
778	９年		61	1/16家持、従四位下に昇叙。
780	１１年		63	2/1家持、参議兼右大弁を拝命。
781	天応元年	桓武	64	4/14家持、右京大夫兼春宮大夫を拝命。　4/15正四位上に昇叙。　5/7左大弁を兼　　　　ねる。　11/15従三位に昇叙公卿に列する。
782	延暦元年		65	1/19家持、氷上川継の乱に連座、現職解任される。　5/17春宮大夫に復任される。　6/17陸奥按察使鎮守将軍兼任となり陸奥に赴任。
783	２年		66	7/19家持中納言拝命。
784	３年		67	1/7息子の永主従五位下に叙任。　家持、持節征東将軍に任命される。
785	４年		68	8/28家持、陸奥国にて死去。　9/24藤原種継暗殺事件の首謀者として官位剥奪される。
806	大同元年	平城		3/17家持、従三位に復位。　息子永主、遠島先の隠岐島より帰京許可がでる。

まとめ

「何も知らない者ほど強い者は無い」の諺とおり、万葉集について全く無知な私が∪氏の挑発（？）に乗ってこの問題に首を突っ込んだのが、間違いの基でした。少し勉強すれば万葉集巻二十の「息長川」関連の箇所の題詞、歌、左注、筆録者についての知識も修得できるだろう。そんな思いで、いざ万葉集全注・研究本や写本を目にしてみて、和歌の知識もなく古文書、万葉仮名も読めない者が、巻二十のみの編纂や成立過程について学習するのが、いかに難解なことかよく解かりました。取敢えず、巻二十の「息長川」に関連する部分についてのみ例によって独断と偏見で疑惑箇所の指摘はしたものの「相聞歌の共通性」以外は何等解明の糸口さえを見出せず、能力不足を露呈するのみに終わりました。
万葉集編纂に関わる作品の採録法・表記法・用字法などということになると全く私には難解で巻二十後半部の編纂には家持以外の別人が関与しているといった説にも、それを判別する知識も無くそうした説に基づいて疑問点を抽出したのみに終わりました。万葉集巻二十だけについてでも語ろうとするならば、少なくとも巻十六以降だけでも薀蓄を傾けられるだけの知識を身につけることが必要であることを思い知らされました。江戸期の国学者契沖は巻1～16までを類聚編纂、巻16～20を日記風編纂として分割編纂説を唱えており現代の説も大筋では契沖説が多数を占めているようです。また、万葉集の編纂には600年代後半から800年代初頭に至る複雑な政局や皇統譜との関わりもあり、これらの解明も必要であり私のような素人には荷が重過ぎて、巻20の編纂について論評出来るものではありません。
目録と本条の違い、題詞と左注の疑義、古今未詳と古新未詳の違い等、複数の人が編纂に関与したのではないか？と思われる箇所は素人目にも見られますが学識研究者の方の論説に従いたいと思います。

喜連の伝承　万葉の息長川	大伴家持と馬史国人	伎人郷（くれのさと）現大阪市平野区喜連	今川の考察	系譜に見る息長氏
平野川探訪	孝謙天皇難波宮行幸と河内六寺	長瀬川を訪ねて（古大和川跡）	伝承地の息長氏